職業的いろいろ

身バレは嫌なのでフィクションを混ぜつつ。

 

5円玉をおでこに貼ると○○が治るとか、足の裏にオリーブオイルを塗ると××に効くみたいな雑誌や書籍、たくさんありますよね。わたしはこれで糖尿が治りました。孫のアトピーはこれを使ったおかげでツルツル です。家族はこれで癌がなくなりました。なるほど。しかしそれらはたいていデマです。ウソです。あなたを騙そうとしてるんです。もちろん、純粋な善意からアドバイスしている身近な人がいるのも知っていますが、そもそもそのひと自身が既に雑誌や書籍によって騙されているということを忘れてはいけない。

この世の中には素晴らしい小説や絵本がある一方で、そうした騙すためのツールとしての本が存在する。書店のランキングを見ていると、その手の本がちょくちょく姿を現すのに気がつくだろう。

 

で、自分はどうなの。

そういうデマゴギーから作られた本をしこたま仕入れて、山ほど売り場に積み上げて、たくさん売って。

ねぇねぇ、どんな気持ち?

医療とは呼べないなにかが書かれた本を並べ、それを買ったひとが実践し、おそらくは標準医療を受けるよりも短く人生を終えている。

 

https://twitter.com/tarareba722/status/1179169421962563584

 

カバー掛けますか? なんて愛想良くして、間接的に命を、そのひとが持っている大切な時間をうばう片棒を担いでないですかね。

売れている本を売るのが仕事?

求めているひとに本を届けるのが使命?

 すごいね?

 

正直、いい加減嫌気がさしてきていたのは事実。

こんな仕事、やめてしまおう。そう言う自分がいた。

 

そんなある日、「完治だよ! 成人病!」みたいな書籍を手にしたおじさまがレジをちらちら見ながら店内をさまよっていた。その目ははっきりと「話しかけてほしい」と言っている。

ならば、と声をかけてみたところ、就職した娘さんが健康診断で異常値が出て、大きい病院で精密検査をした結果重篤な成人病にかかっていることが判明し、もしかしたら希望して入社した会社を辞めなければいけないかもしれないとのこと。

親としてなにかできないかと思い、この本を見つけた。このムックは、病院以外にもっとよく効く治療方法が載っていますか。これでうちの娘はよくなりますか。

もうさ、おじさまはもう涙目なのよ。

なんなら奥様がいつの間にか現れて、こちらもまた涙目なのさ。

 

君なら言えますか。

この本に作り方が掲載されている、油に漬けた豆は、きっと娘さんの病気を快方に向かわせますよ、と。

 

そんな嘘八百、言えるわけがないじゃんか!

 

わたしはその本をそっと受け取り、それから自分の体の後ろに隠しながらこう言うしかなかった。

病院の先生の言うことをよく効いて、それに従ってください。病気の治し方を知っているプロフェッショナルは、こういうのを書いているひとではなく、娘さんのかかっている病院の先生だと思います。疑問に思うことがあったら先生に尋ねてください。病気にかかってみると患者は意外に暇なもんですから、良くないことばかり考えてしまいます。どうかそばにいて病気以外の楽しい話をして、支えてあげてください。

よくもまあこんな大きなお世話がすらすら口から出てきたのか我ながら恥ずかしいけれど、偽らざる本心だった。

奥様は、ほらごらんなさいみたいな感じにおじさんをにらみつけたあと、わたしに頭を下げた。そして「お話を伺えてよかった」と小さくつぶやいいて、そのままご夫婦でお店を出て行ったのを見送りながら、わたしはどうするのがよかったのか考えたんだけど、いまだに答えを見つけることができない。

 

よく読まれている作品、あるいはファンが多い作家。そういうものだけを売っていては利益が出ない。小説以外の有象無象をものすごい量売らないといけない。しかし、主義主張、思想信条ではなく、病で苦しんでいる悩んでいるひとを騙すようなものは売りたくないんだよ。

 

そしたら、こんなツイートをみた。

https://twitter.com/SatoruO/status/1178980557490921472

 

 

もう少しこの仕事を続けて、どうなっていくのか見届けたいという気持ちがでてきたかもしれない。